Simutrans Advent Calender 2023 16日目です。
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0 柔らかく行きたい~都市の構成を考える~
景観とはなんなのだろうか。
現実世界で「景観」という言葉が重要視されはじめてから数十年。高度経済成長の終わりとともに、無秩序な開発は終わりを告げた。Simutrans界隈においても、その波はここ数年で着実に訪れている。
自由度の高さの象徴である「箱積み建築」においても景観プレイを補助する各種パーツがリリースされるなど、リアリティを求める流れが存在している。
景観プレイ、という言葉がよく用いられる。NetSimutransにおいても景観を重視するサーバーが運営されている。
しかしこの言葉は、あいまいさ、個人差を含む、ということがコモン・センスとなっている。
つまるところ「プレイヤーそれぞれの美的センスに依る」という「思い込み」が生じているのだ。
この記事において景観プレイという言葉を繰り返し用いるにあたって、あらかじめ定義しておきたい。
「歴史、地理を含む人文的総合知識、および複数の事例研究に基づいてゲーム内における視覚的景観を構成するプレイ方法」
第一章においては、日本の都市の「歴史」アプローチという観点から、歴史について再度確認していきたい。
第一章 鉄道のある都市の歴史振り返り
1 都市の成立
さて、当たり前のことをここで確認しておこう。
都市は自然発生しない。
都市は経緯こそ違えど、本質的に、「人やモノの流動あってこそ」である。
流動がない状態においてはあくまで「村落」どまりである。
そこから歴史が積み重なって、今日の都市を形成している、ということは繰り返し述べておきたい。
日本においては、宿駅制度と街道が都市形成において重要な役割を果たしてきた。
特に、宿場と鉄道駅が近接しているような場所においては、都市形成において街道と宿場が「脊椎」のような役割を果たしている。
出典:Google Map
これは東海道平塚宿・平塚駅の様子である。
西側、京都方に東海道に沿って商店街「湘南スターモール」が形成されている。
このように、かつての街道に沿って商店街が形成されている事例は多数存在している。
これは宿場に沿って問屋や旅籠などが形成されてきた系譜であると言える。
事実として、特に五街道沿いにおいては江戸、あるいは江戸以前から代々同じ商いをしている、というものは多い。
他にも門前町や港町など、街道に関連する町は多いが、詳細は割愛させていただく。
2 駅がもたらした「都市の基軸の移動」
1872年の新橋~横浜間の鉄道開業を皮切りにして、全国に鉄道網が猛烈な勢いで敷設された。
全国において、特に街道と並行する路線が敷設された宿場では、都市の中心が駅に移動した。
つまるところ、駅に対して横の軸=並行する街道が中心だったものが、駅に対して縦の軸=駅前道路の軸が中心に移動していった。
もちろん、必ずしもかつての宿場の中心が閑古鳥のなくさびれた町になったというわけではなかった。
経済発展とともに都市の圏域がもつ人口が増加したことで、商業需要が増加し、結果として鉄道駅から旧宿場をつなぐように商業地が発展していったのである。
3 再開発事業
1990年以降、工場の海外移転や貨物駅、操車場の移転、その他災害対策などの理由から、各地で再開発事業が開始される。
2000年以降にその計画の多くが実り、都市に新たな風をもたらしている。
再開発事業の建築物の特徴は、その規模の大きさである。
中高層マンションに限らず、大型商業施設、オフィスビルなどその在り方はさまざまである。
第二章 都市の構成要素
ここで、都市を構成する要素について整理しておきたい。
予め断っておくが、この考え方はケヴィン・リンチ「都市のイメージ」から一部借用している。
より詳しく正確な内容は上記の書籍をご確認いただきたい。
「都市のイメージ」において、以下の5要素が構成要素として考えられている。
【パス】【エッジ】【ディストリクト】【ノード】【ランドマーク】
各要素について要約して解説したい。
【パス】:町を構成する街路
【エッジ】:街の境界となる要素。壁や開発エリアの縁、鉄道線路、川や運河。
【ディストリクト】:エリア、という言葉が正しいだろうか(おそらく、「歌舞伎町」「センター街」のような概念を指す)。
【ノード】:都市内部における重要な点。交通や人流の結節点となる部分
【ランドマーク】:都市において目立つ建築物
都市はこれらの要素によって構成される、というのがケヴィン・リンチが示したものである。
私はこの解釈にあたって、ディストリクトとノードの概念を統合した【コア】という要素を加えた6要素によって説明したい。
※ただしこの部分は学術的なものではなく個人的な私見止まりのものであるため、注意。
第三章 都市のレイヤー
都市を読み解くにあたって、3つの観点から歴史を整理し、構成要素を示した。
歴史の3要素は、いずれも独立したものではなく、連綿としたものであることに注目したい。
歴史の3要素が「レイヤー」となって、それぞれ積み重なって現在の景観を構成している。
一方で、このレイヤーを構成する都市の6要素も、決して無秩序ではないことに注目したい。
経済的、あるいは法律による規制、含むさまざま制約の下で構成されている。
【円周モデルと発展減衰度】
これらの制約を一つの概念に落とし込んだモデルを提唱する。
名づけるなら「円周モデル」である。
このモデルは、コアである鉄道駅周辺の建築物の立地パターンを整理し、これを一般化したものである。
地価が高いエリアでは商業施設や高層のマンションなどが立地し、そこから遠くなると建物の高さが低くなり、やがてアパート、一軒家、耕作地 という順に、建物の高さが駅を中心に山の形になるというものである。
ただし、このモデルは、以下の制約がある。
・周辺が完全に平地であること
・法に基づく制約を受けないこと
・区域のすべての道路が同じ幅であること
現実には、道路の幅は異なるし、都市計画法や建築基準法、地形や「エッジ」によって制約を受けて歪むことがある。
注意すべきは、現実における建物の立地が必ずしもこのモデルの形に従わないということである。
都市を構成する建物の立地は、このように境界が明確ではなく、もっとあいまいでなだらかなものである。
この中間領域を「ファジー領域」と呼びたい。
たとえば先に示したモデルの中で、駅に近い中心街区に一軒家や低層ビルが立地することはあるし、逆に低層住宅が農地の中に点在することだってある。このファジー領域のもつ「なだらかな変化」は人工的ではなく自然的な景観構築において非常に重要となる。
ここで、「発展減衰度」という新しい概念を定義しておく。
この概念においては、「道路の幅が狭いほど発展度合いが低下する」という考え方である。
この発展波及度をわかりやすく分析、観察できる事例として、八王子駅がある。
八王子駅の正面の通りは、裏通りと比較して沿道の建築物が高層である。
またこの周辺と比較した高まりは、甲州街道とぶつかる角を曲がって両方に波及しており、駅前から見てT字型の高度発展エリアを形成している。
一方で、高層の大通りから一本裏に入ると低層の建築物群が広がっている。
これは先に示した円周モデルで想定される状況とはやや異なるため、「発展減衰度」の概念を考える必要があった。
※あえて「やや」としたが、これは飲食店をはじめとした各種店舗の立地密度はこの円周モデルに従うためである。
このように、高規格・広幅道路の沿道に高層建築物が集中し、裏通りに低層建築物が立地するのは八王子に限らず様々な場所で見られる。
ただし、このような都市形成は都市計画法や建築基準法など各種法律の制約の結果であることを、頭に入れておいてほしい。
例えば裏通りのような細い街路沿いにおいては「斜線制限」と呼ばれるはす向かいの日照権に配慮した制約が存在し、反対側の道路の端から一定角度の延長線より上側に構築物が存在することができない。
都心部で見られる、角を斜めに切ったマンションやビルはこの都合によるものである。
補足1:再開発事業における例外
再開発事業は、このモデルにおける例外の1つである。
特例条件などによって容積率などが緩和され、広くない道路の沿道にも高層マンションやオフィスビルが立地することがある。
ただしこの事例を適用する場合においては、周辺の空地を取ることを推奨する。
建築基準法上の特例において、建築物の周辺に「公開空地」(スペース)を設定することでその分の容積率を建築物用地に移転することができるためである。
このため、周辺に空地のない再開発ビル・マンションは建築基準法違反の状態となる。(なお、視覚的にも狭さが強調されてしまうために印象が悪くなることを追記する。)
補足2:ニュータウン開発事業における例外
ニュータウンや団地のような人工的事業においては、駅を中心とする都市の広がりは基本的に均一的なものになる。
駅付近のみに中高層マンションが立地するという場合は多数あるが、その周辺は同じ高さの団地マンションや分譲住宅が立地することになるため、その地域がニュータウンなのかそうでないかは、必ず意識しておきたい。
第四章 都市の読み解きと落とし込み、構築方法
歴史や都市のもつ要素についてはすでに示したとおりである。
実践の前に、ある程度、構築にあたっての方法論を示しておきたい。
なお、本手法は全手動開発を前提とするものである。
①基軸となるパスとエッジの設定
Simutransの都市開発にあたっては、必ず原野からスタートとなる。
最初に基軸となる大通りや線路、川や運河など「動かさない・動かせないもの」を引いてしまうのがよいだろう。
駅の場所や大通り同士の交差点など、いくつかコアの候補を設定しておきたい。
②コア・ディストリクトを定める。
基本的には駅(または港湾)が中心となるだろうが、発展の中心になるコアやディストリクトを定める。
この時に、歴史的成り立ちや、その性質に注意して検討すると、より実感的な町づくりにつながっていく。
③ランドマークの設置
ここでのランドマークは特殊建築物ではなく先に述べた都市の6要素におけるランドマークである。
Simutransの建築物に限らず、箱積み建築によるビル建設など、とにかく目立つ建物のスペースだけでも確保しておくとよい。
コアの付近に建てる形にするのが理想である。(ただし例外多数のため守る必要は全くない)
④細いパスの建設
基軸パスの裏通りを引いていく。
整然とさせてもよいが、多少T字路などで入り組ませたほうがリアリティは上がると個人的には認識している。
⑤コアに近い場所から建物を建設していく
コアに近いほどにぎわい、高くなるように建物を選んで建設していく。
そのパスやディストリクトがもつ性質や、円周モデルに基づく理論に注意し、適切な建物を選択すると非常によい。
ノードのような場所も、サブのコアのような場所としてとらえるとより効果的だろう。
⑥間の領域を埋める
先の⑤の過程で発生した領域を、これがファジー領域であることに十分注意して埋めていく。
手間のかかる作業にはなるが、範囲建設と撤去を繰り返して、いくつかの属性の建物が混ざり合う形がもっともよいだろう。
⑦その他パーツで整える
電柱や道路系の装飾で外観を整えていく。画竜点睛を欠くようでは、景観の完成には至らない。
第五章 実践
LENS-1 での実践
事例1 塩明市上町区
上町区の中心である崎上町エリアの景観である。
「瑞花崎上町駅」と「瑞華海神」のエリアを基軸とする一方で、大通り沿いに高いビルを立地させている。ところどころ大型のビルを配置して、凹凸をはっきり印象付けることでより実感的な街をつくることを企図した。
建物の選択にも気を遣い、先の円周モデルと発展減衰度理論にしたがって、裏通りのビルが低高度になるように配置した。
駅から離れ、エッジで分断されるエリアは第三章で述べた「ファジー領域」にに注意し、駅や通りから遠くなる場所に低層の住宅を配置した。
事例2 塩明市能生区杜尾
塩明市の北に立地する駅である。
東京でいう千歳烏山のような立ち位置をイメージした都市設計としている。
マンションはゆったりとしたGermanからの租借品を中心に採用し、再開発の高層マンションの周辺には公園を設定したしたほか、地形の都合で建物が建たない場所では森林を残し、景観に余裕をもたせている。
整備途上のため粗があるがご承知おきを。
こちらも先ほど同様に、特に駅近辺のファジー領域に注意して配置を行った。
第六章 あとがき
本来は画像中心でわかりやすさを重視すべきだったが、多忙につきこのような雑然とした構成の文章が中心になってしまった。
わかりにくいものになってしまったが、読者各位においては、ただの縦横の二次元的空間ではなく、立体方向の景観という三次元的空間、歴史レイヤーを取り込んだ四次元的、都市の構成要素を意識した五次元的空間で都市をとらえ、またこの見識が景観プレイの一助となり、また現実の都市を観察、分析するにあたって重要な道標となれば幸いである。
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